自転車ロードレースに於ける無線使用禁止の流れ
なぜ無線を禁止するのか?
まず、なぜUCIがこの様なテストを行うのかについて背景から見てみましょう。無線の使用は、監督と選手がリアルタイムでコミュニケーションを取れる便利なツールです。これにより、監督は戦術的な指示を送ったり、危険箇所を伝えたり、レースの状況を即座に選手へ共有することができます。
一方で、これらがある意味、レースの予測不可能な要素を減少させていると考える人たちもいます。無線があると、どうしてもチーム戦術が先行し過ぎて、選手個々の判断や即興のパフォーマンスが見られにくくなります。無線のないレースは、もっと自然な競り合いやドラマティックな展開が期待できるのも事実です。
そして一番大きな理由は、無線が落車事故の原因のひとつになっているのではないかという仮説です。私自身、だいぶ前から「選手たちの危険回避の動きが危険を生み出している」という皮肉のような現状を訴えてきました。
レース中、選手たちは勝負どころや危険箇所の前になると、各チームの監督から一斉に「このあと◯◯に突入するからトップ20番手に位置取れ!後ろにいたらそこでレースが終わるぞ!」と喝を入れられます。集団の人数は約120名。120名の選手が一斉に集団のトップ20番手以内を狙ったらどうなるでしょうか。そして、その過密状態のまま危険箇所に突っ込んでいくわけです…。
無線なしのレース、どうなる?
では、無線がないとレースはどうなるのでしょうか?一つ言えるのは、選手たちの経験と判断力が試されるということです。自分自身でレースの状況を読み取り、最適な行動をとることが求められます。これにより、レースは今よりも予測不可能なものになる可能性があります。
経験があり、コースを熟知している選手は早めに良い場所を位置取り、そうではない選手は都度脱落していくでしょう。
また、ファンにとっては嬉しい変化かもしれません。なぜなら、無線なしのレースでは、選手たちのレース勘や瞬時の判断が見られるからです。誰が勝つか、どんな展開になるかは予測しにくくなり、ライブスポーツの醍醐味が増すかもしれません。
一方、無線が使えなくなると監督や選手たちからはどのような声が聞こえてくるのでしょうか。
「レース状況が把握しづらくなる(強いチームの選手はやりにくくなる)」
「レースの危険箇所を把握できなくなる」
「若手選手の教育が非効率になる(監督の意見)」
「無線がなくなったら俺たちはただの運転手だ(監督のぼやき)」
しかし、すでに世界選手権などでは無線使用は禁止されており、今年のツアー・オブ・ジャパンでも無線使用は禁止でしたが、2023年の世界選手権(イギリス・グラスゴー)も、2024年のツアー・オブ・ジャパンも、とても見応えのあるダイナミックなレースが展開されていました。
2024年のテストと今後について
2024年の夏のレースでの無線禁止はあくまで試験的なものですが、その結果次第では、将来的に無線禁止が一般的なルールとして定着する可能性もあります。これが実現すれば、ツール・ド・フランスの戦い方や展開も大きく変わるかもしれませんね。