近年消滅した大きなロードレース
コロナ禍に突入した2020年以降、世界中で多くのロードレースが一時的に開催中止に追い込まれてきました。一方、レース自体が消滅してしまうという最悪のパターンもいくつか散見されています。
主要レースとしてまず記憶に新しいのが、14年間にわたり北米最大のステージレースとして君臨してきた「ツアー・オブ・カリフォルニア(アメリカ)」です。
正確には新型コロナの影響で消滅に追い込まれたわけではないですが、2019年11月に財政難を理由に2020年大会の中断を発表。2021年からの復活を目指すとしていましたが、結局その直後にコロナ禍に突入してしまい、2022年となった今でも再開の声はまったく聞こえてきておりません。
一方、コロナ禍突入以降3年連続(2020年〜2022年)で開催中止となっていた「ツール・ド・ヨークシャー(イギリス)」の運営会社が破産したというニュースが流れてきました。
2014年にヨークシャーで開幕したツール・ド・フランスのレガシー大会としてスタートしたツール・ド・ヨークシャーですが、開始直後は「大成功した新レース」として世界中から注目を浴びる存在となっていました。
経済波及効果としては、初年度の2015年で5,000万ポンド(現レートで約80億円)、以降、2016年は6,000万ポンド(同約96億円)、2017年は6,400万ポンド(同約102億円)、2018年は9,800万ポンド(同約156億円)、2019年は6,000万ポンド(同約96億円)と順調に大会の価値を高めてきました。
2017年のレースは世界中で970万人が視聴し、翌2018年は延べ260万人以上の観客がコース上で観戦していたと発表されています。そして地元紙は英国最大の屋外型イベントであると評価していました。
しかし、その流れはコロナ禍で一気に断ち切られ、運営会社の破産という最悪の結末となってしまいました。実際には運営会社内でのスキャンダルなども影響していたとのことで、単にコロナのみが原因ではなかった様ですが、それでも良い流れから一変してしまったのは紛れもない事実です。
どちらのレースも再建に向けた取り組みを進めている状況だとは思いますが、いわゆる「自転車ロードレース主要国」ではない地域でのレース開催の脆弱性を示すエピソードといえます。自転車ロードレースというのは、特に財政面に於いて明確なビジネスモデルが構築されておらず、経済的価値を計ることが非常に難しいスポーツです。
本場ヨーロッパには「文化」としての土台があるため「価値の見える化」をせずとも継続していける強さがあります。一方、我々日本を含めた「自転車ロードレース新興国」には本場の様な文化がないため、続けていくためにはなんらかの明確なインセンティブが必要となってきます。
現状維持に陥るのではなく「新しい価値を創っていくこと」が非常に大切なのは間違いありませんが、一方で、40年以上続いてきたものを途絶えさせずに続けていくことも同じくらい大切であり、引き続きその両面を意識しながら取り組みを進めていきたいと思います。