UCIの評価を考察
(緑の評価バーは色で合格を示しており3段階評価ということではございません。問題があると赤で表示されます)
2024年のツール・ド・フランスが大盛況のうちに幕を閉じ、そしてすぐにパリ五輪が開幕しております。今回は、6月下旬の当ブログにてご紹介した「ツアー・オブ・ジャパン2024に対するUCIからの評価」について、改めて簡潔に考察していきたいと思います。
まず、最終報告書の冒頭に書かれている総評は以下の通りです。
「本当によく運営されている大会です。安全性は抜群で、事故もありませんでした。運営側は非常に反応が良く、あらゆる要望に応えようと懸命に取り組んでいます。いくつかのチームと話をしましたが、不満はなく、賞賛する声が多かったです。大会のレベルは非常に高く、エキサイティングなコース、レース、そしてコミュニティの参加が盛んです。一般の関心も高く、この大会はラジオ、テレビ、印刷メディアでも取り上げられています。」
ここ数年、ツアー・オブ・ジャパンにはUCIから経験豊富なチーフコミセールが派遣されています。彼らはグランツールなどのトップレースを知るベテランであり、そんな彼らの言葉はツアー・オブ・ジャパンや国内レースを支える関係者の真の価値を示していると感じます。
次に、個別の内容をみていきましょう。
◯安全性
要約:「安全性は抜群。レース中に注目すべき事故はなかった。すべてのステージが大きなサーキットで行われ、安全性が確保されていました。マーシャルや警備員も配置され、万全の体制が整っていました。」
安全性については、我々が常に細心の注意を払って取り組んでいる重要な要素です。毎年いくつかの問題が発生しておりますので、気を引き締めて改善を続けなくてはなりませんが、昨年に続き、今年も本場のレースを知るチーフコミセールから高評価をいただけたのは、関係者の献身的な努力の賜物でもあります。そして、もう一つの要因としては、全ステージがクローズドタイプのサーキットコースを採用していることが挙げられます。近年、自転車ロードレースにおいて安全性の確保は世界的な最重要課題となっています。これまでのように盲目的に「ロードレースはラインレース」と唱える人たちがいる一方で、継続的な開催や開催地域のメリットと盛り上げ、安全性とそれに付随する経済性を考えると、サーキットコースの優位性がこれまで以上に高まってくると感じます。
◯観客とコース
要約:「このコースは、さまざまなチャレンジが楽しめる非常に興味深いコースです。観客の関心も高い。かなりテクニカルで非常に興味深いサーキットで、エキサイティングかつさまざまなタイプのライダーが挑戦できます。コース周辺、特にフィニッシュラインには大勢の観客がいます。彼らは本物のファンです。」
TOJのコースについてはこれまで様々な議論を聞いてきました。例えば「富士山ステージは厳しすぎて日本人が活躍できず、UCIポイントが取りづらい」というのは有名な議論です。しかし、面白いのは本場のチーフや海外チームや選手たちからはそのような声をあまり聞かないことです。むしろ、TOJの過酷なコースに対して価値を感じ、このレースに勝つためにチャレンジしている気持ちが伝わってきます。
◯チーム宿泊
要約:「和洋折衷の質の高い宿泊施設と食事。主催者はチームとのコミュニケーションをしっかりとり、質の高い宿泊施設や食事を提供していました。バス移動やホテルの設備も万全で、選手たちは快適に過ごせました。」
宿泊ホテルについては、開催地の宿泊施設の数が限られているため、公平に振り分けるのに毎年かなり頭を悩ませています。移動やチーム対応などを考えると、海外チームをできるだけ同じホテルにまとめるのが効率的ですが、そのため国内チームとの差が生じてしまっているのも事実だったりします。また、昨今の宿泊費の高騰は、8ステージ(実質10日間)もある我々にとっては本当に深刻な問題となります。正直、この点に関してはワンデーレースや数日で終わるステージレースがとても羨ましいです。
◯テレビ制作
要約:「レースのライブ配信がよかった。2台のバイクと数台の固定カメラによって行われました。毎日終日ライブ配信されました。TVモトは非常に協力的で、競技内でうまく機能しました。また、改善するための方法について指導を求めました。必要に応じてフィニッシュジャッジ用に配信映像を確認することもできました。」
テレビクルーにとって、限られた予算の中で連日過酷なサーキットコースで安全かつ効果的に映像を撮り続けることは非常に困難な作業です。レースだけでなく、大阪から東京への移動もこなさなければならないため、ワンデーレースや数日で終わるステージレースに比べると、体力面や様々なマネジメントスキルが必要になります。しかし、視聴者の皆さんは「目に見える映像」だけで良し悪しを判断するため、映像以外の部分の負荷や努力は表向きには評価の対象にはなりません…。彼らもまたサイレントヒーローのひとりといえます。
◯組織
要約:「非常に良い組織です。応答性が高く、要求された変更をすべて実装するために尽力してくれました。素晴らしいチームです。組織は全員と良好なコミュニケーションを図り、変更や情報の要求は迅速に処理されました。」
基本的にレース主催者というのは、表面的には褒められることが少ない仕事といえます。加点方式ではなく「安全にできて当たり前」の減点方式の仕事です。大会前後・期間中は、細々としたお叱りをたくさんいただき小さくないストレスを受け続けています。だからこそ、こういった評価をいただくと本当に救われる想いがします。
今回は総じて高い評価をいただけましたが、これに甘えることなく、今後も改善を続け、常に時代に合った自転車ロードレースとして発展し、世界中のサイクリングファンに愛される大会になるように尽力していこうと思います。