求められるもの
現在、シーズン最後のグランツール(世界3大ステージレース)となる「ブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIワールドツアー)」がスペインで開催されています。
ブエルタはグランツールの中で最もスペクタクルなレースと言われていますが、今回は自転車ロードレースを取り巻く主要ステークホルダーが求めるものなどを再確認しつつ、皆が満足するレースとはいったいどんなレースなのかを考察していきたいと思います。
◯ステークホルダー①
「レース主催者が求めるもの」
・たくさんの人たちから注目されるレースを開催したい(コースを厳しくする傾向)
・安全かつ効率的なレース運営を行いたい
・大会経費を抑えたい(安全性とトレードオフになりかねない…)
・大会運営費を安定的に確保したい
◯ステークホルダー②
「観客が求めるもの」
・スリリングなレースを観たい(動きのあるレースを求める傾向)
・応援しているチームや選手に活躍してほしい
・アクセスしやすいレース会場
・迫力ある映像と細かな情報でレースを楽しみたい(無料放送or配信)
◯ステークホルダー③
「出場チームが求めるもの」
・良い条件でレースに招待されたい(できるだけ出費を抑えたい)
・メディア露出の多いレースを走りたい(スポンサーを獲得しやすくなる)
・観客の多いレースを走りたい(同上)
・好成績を挙げやすいレース(コース)に出場したい
・たくさんの賞金を獲得したい
・ストレスの少ない環境で出場したい(ホテル・移動環境など)
◯ステークホルダー④
「選手が求めるもの(チームが求めるものにプラス)」
・良いホテルに泊まりたい
・良い食事を食べたい
・安全にレースを走りたい
・レースを走ることによって強くなりたい(経験を積みたい)
実際にはもっと多くのステークホルダーが存在していますが、今回は主要ステークホルダーが求めているであろうものをザッと挙げてみました。
やはりいくつかの項目については、ステークホルダー間で相対する内容が散見されます。
例えば、観客が楽しめるスペクタクルなレースとは、「予想がつかないレース」である一方で、近年のプロチームの傾向というのは、チーム・イネオスのブレイルスフォード代表などが提唱するマージナルゲイン(1%の可能性の積み重ね)という効率化の追求であり、レース活動を可視化することで「勝利の方程式」を導き出し、選手の強化、戦略、リスクなどをコントロール下に置いてスマートに戦うことが求められています。
極端な言い方をすれば、強いチームや選手たちにとっては予測可能なレースこそが最高の形であり、実際にそういうレースが増えてしまうことで、観客が求めるものと逆方向へと向かってしまう現象が一部で生じてしまっています…。
これからのレース主催者というのは、まずは「観客」と「チーム・選手」という二大ステークホルダー間で相対する「求めるもの」の絶妙な落としどころを探り、その上でレースの価値を向上させていき、多くのスポンサーやメディアを満足させていかなくてはなりません。
皆が100%満足できるレースを開催するということは不可能なのかもしれませんが、それでもステークホルダーが求めるものをしっかりと認識することで、「最善のレース」を開催することは可能になるはずです。