サポーター文化
月に一度開催している「プロ観戦者への道イベント」のゲストとして、過去にプロ野球球団の応援団経験もあるフリープロデューサーの南部氏をお迎えし、他のスポーツの観戦(サポーター)文化についてお伺いいたしました。
ここ10年ほど、国内のロードレース観戦文化は大きく拡大してきています。
私が現役で走っていた頃というのは、観戦者の数は本当にまばらで、いわゆる「マイナースポーツの会場」という言葉がしっくりくる雰囲気に包まれていました…。
要因は様々ですが、「会場が人気(ひとけ)の無い山奥」であったり、「会場に観戦者を誘導するためのインフォメーションやシステムが構築されていない」だったり、更には「観客がいると安全なレース運営に支障をきたす=安全対策にお金がかかる」などといった、根本的(絶望的)な要因すら存在していたからでしょう。
要は、「レースを開催するために観客が必要」な仕組みとなっておらず、むしろ、観客の存在がネガティブな要因を生み出すことに繋がってしまっていたわけです…。
ではなぜその「観客が必要ない仕組み」でレースが開催されていたのか?というと…。まずはいつもお話しているように、自転車ロードレースというスポーツは、観客から「入場料収入」を得られない仕組みとなっています。
また、スタジアムスポーツやアリーナスポーツの様に「観客席=観るための環境」が元々備わっているわけではなく、これらは自分たちでお金と労力をかけなければ用意できないという難しい環境下にあります。
そして、例えがんばって「観客席」や「観客エリア」を設置いたとしても、そこをクローズドエリアにして集金するための仕組みを構築しようとすると、結果的に「収入」を上回る「経費」がかかってしまい、「やらないほうが良い」という結論に達してしまったりもします…。
ですから、どうしても「お客さんがいないとイベント自体が成り立たない」という発想に繋がり難い側面があったわけです(大会運営費は別の概念から生み出されていることが殆ど…)。
そんな中、近年になりようやく、「お客さんあっての大会(相変わらず直接的な入場料収入は見込めないもののお客さんが開催地域に集まることで価値が生まれる仕組みになりつつある)」という概念が一般化し、同時に各レースの観客数も増加傾向となってきました。
と、そんな自転車ロードレースの「観客」という要素について改めて基本的な部分をご説明してみましたが、その上で今回の「プロ観イベント」で南部氏から伺った経験談はとても興味深い内容でした。
まず、思っていたよりも、プロ野球の応援団というものが球団側と密な関係ではなかったこと。応援団側が自主的にいろいろと考えて活動し、更になにかあった時には自分たちで解決するようなところがあるということ(要するに私が思っていたよりも独立というか自立した存在であった)。
そして、一番興味深かったのは、南部氏の「プロ観戦者」というワードに対する認識でした。
元々、この「プロ観戦者」というワードは、私がテレビ解説業の中で、世界一自転車ロードレースに対して熱心といわれている「ベルギーの自転車ロードレースファン」のことを、観戦のための高い知識やスキルを持っていることから「プロ」という表現をつかってリスペクトしたところから生まれていました。
しかし、南部氏はその経緯は理解してくれた上で、更にその先にある本当の意味での「プロ観戦者」という意味合いを提案してくれたのです。
南部氏は、プロ野球応援団を卒業したのちに、応援団の時に培った人脈や経験を活かして、Jリーグなどを中心としたプロスポーツ関連のマーケティング業務で生計を立てるようになっていました。
元々は生粋の応援団だったものの、その経験を活かして、本物の「プロ(仕事にする)」になってしまったわけです。ですから、南部氏が提唱するもう一つの「プロ観戦者」という概念は、「観戦者」の次のステップとしての「プロ=観戦スキルを仕事にする」という姿となるわけです。
そういう意味では、私自身もある意味で元々「観戦者(選手・監督がメインですが)」だったわけですから、自らを「プロ観戦者(いまは仕事になっているので)」と名乗ることができるのかもしれません。
まだ具体的な活動内容などを提示できるわけではありませんが、「観戦者やサポーター」という存在(ただ選手やチームを応援するだけでなく)が、自ら新たなマーケットを創り出し、そこに雇用が生まれる可能性があるということに気付けたことは大きな収穫だったと感じています。
自転車ロードレースには、自転車ロードレース独自の応援方法と大会を運営するための集金システムがあるはずです。
それらを、現在サポーターとして活動している方々が独自に生み出し、新たなマーケットが形成されていくことに、長い目で期待していきたいと思います。